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ひびわれの補修

 コンクリート内部鋼材の腐食劣化防止や、コンクリートに発生したひび割れには多様な原因で発生します。 そのため、鉄筋コンクリート構造物にひび割れが生じてしまうと、ひび割れから水や酸素などが浸入し、コンクリート内部にある鉄筋を錆びさせ、構造物自体の耐久性を低下させてしまい、寿命を短くしてしまいます。ここでは、 構造物に発生したひび割れの補修方法について、説明したいと思います。

 ひび割れの生じた構造物の対策にあたっては、ひび割れの原因や挙動、ひび割れ幅、ひびわ割れ長さ、構造物の置かれた環境、残存予定供用期間、経済性等を考慮し、対策後に必要な性能が得られるように適切な方法で実施しなければなりません。
 ひび割れには、進行性でないひび割れ、進行性のひび割れ、構造上のひび割れとあります。
進行性でないひび割れでは、ひび割れ被覆工法やひび割れ注入工法、ひび割れ充填工法などの補修工法があります。

コンクリートひび割れ注入状況  進行性のひび割れには、ひび割れだけを補修し、根本的な原因を排除できていない場合は、十分な補修効果を得ることは困難です。劣化の進行に対して有効な対策として、断面修復工法や電気化学的な工法や表面被覆工法など併用して実施する必要性があります。

 構造上のひび割れには、設計上想定しているひび割れか否かの確認を行う必要がありますが、構造上のひび割れによる有害なひび割れの場合は構造物の補強などを検討する必要があります。補強工法には増厚工法、増設工法、プレストレスト導入工法、接着工法等があり、最適な工法を選定することが重要です。

 構造物の外観変状調査の結果、鉄筋に沿ったひび割れや錆汁の滲出など塩害や中性化などの鉄筋腐食に起因する劣化が疑われた場合、詳細調査を実施して劣化要因の特定を行います。塩害に関する試験方法としては塩化物イオン含有量試験、中性化に関する試験方法としてはフェノールフタレイン法による中性化深さ試験などが挙げられます。また、塩害、中性化とも、鉄筋の腐食度を評価することが重要となりますので、はつり調査による鉄筋腐食度目視確認に加え、自然電位法や分極抵抗法などの非破壊検査手法を併用することも効果的です。

 塩害や中性化により鉄筋が既に腐食すると、その腐食生成物(錆)の膨張圧によりコンクリートにひび割れが生じます。そのひび割れからは錆汁の滲出が見られることが多く、さらに腐食が進行するとコンクリートのはく離・はく落が生じます。そして最終的には腐食によって鉄筋断面が著しく減少し、耐久性能のみならず耐荷性能までも損なうこととなります。一般的に、点検業務や調査業務の段階で塩害や中性化による劣化が発見される場合、すでに上記のようなコンクリートの変状が顕在化している状態であることがほとんどです。このような場合には、対策工の主たる要求性能を「鉄筋腐食の抑制」と設定すべきです。なぜなら、塩害にて鉄筋腐食が発生しているということは、既に鉄筋位置での塩化物イオン濃度が十分に高いことを示しており、その段階でいくら外部からの塩化物イオンの侵入を阻止しても鉄筋腐食環境は改善されないからです。同様に、中性化にて鉄筋腐食が生じているということは、既に鉄筋位置まで中性化が進行していることを示しており、その段階でいくら外部からの二酸化炭素の侵入を阻止しても鉄筋腐食環境は改善されません。この段階では、既に腐食を開始した鉄筋に対し、以後の腐食反応をいかに抑制するかを考えることが重要です。

 鉄筋が腐食を開始しているということは、鉄筋周囲の不動態被膜が破壊されているということです。一度破壊された不動態被膜は、自然に回復することはありません。しかし、そこに亜硝酸リチウム(の亜硝酸イオン)を供給すると、不動態被膜が再生され、以後の鉄筋腐食反応を抑制する効果が期待できます。亜硝酸リチウムを用いた塩害・中性化対策工法としてよく適用されている「断面修復工法」に加えて、近年では「内部圧入工法」も実用化され、実績が増えています。また、塩害や中性化で発生しているひび割れの奥には腐食した鉄筋が存在するはずですので、「ひび割れ注入工法」によって亜硝酸リチウムを直接供給することもできます。ここでの亜硝酸リチウムの役割は、既に腐食が進行している状態の鉄筋に対して直ちに亜硝酸イオンを供給し、以後の鉄筋腐食反応を抑制することとなります。
 これらを踏まえて、塩害や中性化により鉄筋が腐食し、コンクリートにひび割れやはく離などの変状が生じている場合の、「鉄筋腐食の抑制」を主たる要求性能とした対策工法を行います。
 なお、この劣化段階で表面被覆工法や表面含浸工法を適用することもありますが、その場合は亜硝酸イオンが鉄筋位置まで浸透するまでに長時間かかることと、供給可能な亜硝酸イオン量に制限があることなどから、再劣化を想定した維持管理シナリオをあらかじめ想定しておく必要があります。

 また、構造物の外観変状調査の結果、ひび割れや白色ゲル析出などASR(アルカリ骨材反応)による劣化が疑われた場合、コア採取による詳細調査を実施して劣化要因がASRであるかどうかを判定します。ASRに関する試験方法としては、膨張量試験、岩種判定、アルカリ含有量分析、アルカリシリカゲルの確認などが挙げられます。
 劣化要因がASRであると判定されると、次にASR対策工法の選定を行います。

【1】 ASRの膨張性
・残存膨張量試験により、今後も有害な膨張が進行するか否かを推定する。
・過去の定期的なひび割れ調査結果などから、ASRの進行性や進行速度を推定する。
【2】 構造物の立地・環境条件等
・水分遮断によるASR抑制効果が期待できる環境か否か?
・構造物へのアプローチは容易か否か?
【3】 構造物の予定供用年数
・予定供用年数は?

ASR対策工法を適切に選定するためには、上記のような着目点について考慮しておくことが重要です。