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コンクリートのアルカリ骨材反応(ASR)

コンクリートのアルカリ骨材反応(ASR)

 コンクリートは本来、高いアルカリ性を有しています。そのアルカリ分がコンクリートに使用された反応性骨材中のある種の反応成分と化学反応を起こし、反応生成物であるアルカリシリカゲルを生成します。アルカリシリカゲルは強力な吸水膨張性をもっており、コンクリート外部からの水分供給により膨張します。このアルカリシリカゲルの膨張によってコンクリート内の組織に内部応力が発生し反応性骨材周囲のセメントペーストを破壊します。時間の経過に伴ってアルカリ骨材反応(以下ASR)が進行すると、反応性骨材の周囲に発生した微細なひび割れが進展し、やがてコンクリート構造物の表面に巨視的なひび割れが発生します。これがASRによるコンクリートの劣化メカニズムです。

 

 ASR劣化の進行過程は、第1ステージ『骨材中のシリカ鉱物とコンクリート中のアルカリ金属との化学反応によってアルカリシリカゲルが形成される過程』と、第2ステージ『アルカリシリカゲルが細孔溶液を吸収して膨張する物理化学的な過程』に分離することができます。それらを模式図と化学式で表すと図1のようになります。

図1 ASR劣化の進行過程

 ASRの進行過程の反応機構をみると、十分な、十分なアルカリ金属イオン、および骨材中の反応性シリカの存在、という3つの条件が揃ったときにASRによるコンクリートの劣化が生じるということが理解できます。ここで、アルカリシリカゲルの生成は、全ての種類の骨材において発生するのではなく、ある種の不安定な鉱物(シリカ鉱物など)を含む反応性骨材が混入されている場合に発生する可能性があります。わが国で確認されている反応性骨材の主なものとして、火山岩が起源の骨材(安山岩、流紋岩など)や堆積岩が起源の骨材(チャート、砂岩、頁岩など)などが挙げられます。

 ASRによるコンクリートの膨張性は非常に大きく、その膨張も長期間継続することが知られています。その結果、ASR補修を施工しても短期間のうちに再劣化を引き起こしている構造物も少なくありません。従って、ASRで劣化した構造物の対策工法を選定するにあたり、将来的なASR膨張性進行性を把握し、今後も有害な膨張が進行するか否かを適切に評価することは極めて重要です。

 ASRの膨張性を評価する方法として、コア採取による残存膨張量試験が挙げられます。残存膨張量試験には、「JCI-DD2法」、「カナダ法」、「デンマーク法」などがありそれぞれ促進条件や試験期間、判定基準などが異なります。いずれの試験方法を用いた場合でもそれぞれの判定基準を超える膨張量を示した場合には、今後も有害な膨張が進行することを前提として対策工法を選定することが重要となります。

 いずれの試験方法においても当該構造物の将来的なASR膨張進行の可能性を定量的に示すことができるのですが、反応性骨材の種類によってはある試験方法では膨張性を適切に評価できずに「無害」と誤診する可能性があることも指摘されています。例えば、JCI-DD2法における判定基準値のひとつとして13週間の促進環境下における膨張量が0.05%以上を示したものを有害と判定する基準値がありますが、遅延膨張性を示す骨材などでは実際には有害な膨張性を秘めているにもかかわらず、試験結果では0.05%を下回るということもあります。残存膨張量試験の結果はあくまである一定の促進環境下における膨張量を示すものであり以後のASR膨張の可能性を示すひとつの目安程度と捉える姿勢も必要となります。過去の定期的な調査結果から、ひび割れ幅や延長の進展がみられる場合には、残存膨張量試験によらずASRの進行性が大きいと判断することもできます。

 従来、ASRによって劣化したコンクリート構造物の補修工法として表面保護工により外部からの水分供給を遮断する対策が多く採られてきました。しかし例えば橋台や擁壁などのように背面土砂側からの水の供給を遮断することが困難な場合もあり、条件によっては外部からの水の供給を完全に遮断することは難しい場合があります。
 リチウムイオンがアルカリシリカゲルを非膨張化させるという考え方が一般的です。すなわち、アルカリシリカゲルにリチウムイオンが供給されることによって、水に対する溶解性や吸湿性を持たないリチウムモノシリケートまたはリチウムジシリケートに置換され、アルカリシリカゲルが非膨張化されるのです。これらを反応式で表すと図2のようになります。

図2 リチウムイオンによるゲルの非膨張化

 アルカリシリカゲルがリチウムイオンによって非膨張化される吸水膨張反応が収束するため以後コンクリートのひび割れは進行しなくなります。これがリチウムイオンによるASR抑制のメカニズムです。