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遅延型エトリンガイト(DEF)の生成によるひびわれ

エトリンガイトとは

エトリンガイトはセメント水和物の1つで化学式では「3CaO・Al₂O₃・3CaOSO₄・32H₂O」で表します。エトリンガイトはそれ自体で強度を発現し、セメント硬化体を膨張させる性質があります。

この性質がコンクリートにさまざまな影響を与える要因となります。

エトリンガイトの生成する場面

 エトリンガイトはセメント中に含まれるアルミネート相(C₃A)と硫酸塩(石膏、硫酸マグネシウム等)が反応し生成します。
エトリンガイトが生成される状況は以下のとおりです。

【水和反応初期段階】
 コンクリートが練り混ぜられ最初に起こる水和反応でエトリンガイトが生成されます。これがコンクリートの凝結や初期強度の発現に影響を与えています。

 またアルミネート相が水と水和反応すると高い発熱と急結を引き起こします。そのため、コンクリートの急結を防ぐために石膏をセメントに加えることで急結を緩和させています。

【膨張材使用時】
 エトリンガイトには膨張する性質があるため、ひび割れを防止する目的で使用される膨張材のなかにはエトリンガイトを生成させることでコンクリートを膨張させるタイプのものがあります。

化学的浸食
 下水道・海水の作用を受ける、硫酸塩を含む土壌に接するあるいは温泉地などのコンクリート構造物は外部からの硫酸塩の影響で表層部にエトリンガイトが生成し、劣化させます。
 対策として、アルミネート相を4%以下しか含有していない耐硫酸塩セメントの使用があります。

【DEF(遅延型エトリンガイトによるひび割れ)】
 コンクリート打設後、数か月~数年でコンクリート内部でエトリンガイトが生成され、その後膨張してひび割れを発生させます。

DEF(遅延生成エトリンガイト)とは

 DEFとは「Delayed Ettringite Formation」の略称で先に記載したとおり、エトリンガイトの遅延生成によってコンクリートに膨張劣化を引き起こす現象を指します。
 発生する条件は、以下の3点挙げられます。

【1】高温の蒸気養生

【2】過剰な硫酸塩

【3】十分な水分供給

 発生の過程は、コンクリートが打設後訳70℃以上の高温になるとエトリンガイトが分解されます。
 そのコンクリートに一定量以上の硫酸塩が含まれ、かつ十分な水分の供給下であれば、数ヶ月~数年後に再びエトリンガイトが再生成されDEFとなります。
 しかしながらエトリンガイトが再生成しても必ず膨張するとは限らず未解明な部分も多いのが現状です。

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羽原俊祐、福田峻也:「コンクリートのエトリンガイト遅延生成-DEF劣化によるコンクリート製品のひび割れ現象と対策 」より

DEF (遅延生成エトリンガイト)の現状

 DEFはコンクリートを高温にさらす蒸気養生が行われるコンクリート二次製品に多く発生します。現在、国内ではコンクリート二次製品で数例報告されている程度ですが、海外では現場打ちコンクリートでもマスコンクリートにおける報告例があります。
 理由として、以下の2点挙げられます。

  • マスコンクリートでは中心温度が70℃程度まで上昇する場合がある。
  • 更に海外では硫酸塩が多く含まれるセメントを使用していた地域もあった。

 そのため海外ではDEFに対する意識が高く、コンクリート最高温度の限界値を設定している国もあります。

 日本では現場打ちコンクリートでの報告はありません。しかしながら二次製品では報告があり、マスコンクリートではコンクリート温度が70℃を超える可能性は十分あります。
 また、今までの劣化事例でASR(アルカリ骨材反応)凍害と報告されているなかに症例が似ているDEFが潜んでいた可能性も否定することはできません。
 したがって、国内においてもマスコンクリート打設の際はDEFが発生してもおかしくない状況と考え留意する必要があります

DEF (遅延生成エトリンガイト)の対策

 DEFの対策として、コンクリート温度の管理及び適切な混和材や低アルカリ型セメントの使用が考えられます。

 コンクリート温度が70℃程度まで上昇しないように二次製品では蒸気養生の温度を、現場打ちコンクリートでは内部温度を管理することが重要となります。また、高炉スラグフライアッシュ等の混和材や低アルカリ型のセメントを使用することでDEFのみならずASR(アルカリ骨材反応)の防止にもつながります。

DEF (遅延生成エトリンガイト)の調査方法

 DEFによるひび割れは、内部膨張のため亀甲状になる場合が多く、ASR(アルカリ骨材反応)と類似しており、外見で区別することが困難です。
 DEFの調査方法として、現在日本で規格化された試験方法や標準となる評価方法はありません。
 一般的には、以下の2つが挙げられます。

  • 走査型電子顕微鏡(SEM) 等を使用し、破断面を組織観察してエトリンガイトの生成を確認する方法。
  • コンクリートコアの残存膨張性試験でエトリンガイトによる膨張の有無を確認する方法。

DEF (遅延生成エトリンガイト)の補修方法

 補修方法についても事例が少なく、国内では現在確立されていません。
エトリンガイトの膨張量についても、コンクリート内の硫酸塩量などにより異なるため、十分な調査を行ったうえで補修方法の選定を行う必要があります。
 もしDEFが疑われるひび割れが発生した場合は当サイトのお問い合わせフォームからご連絡下さい。
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